ToRとMajaのコラボ、アジアの英語圏マーケットに「完全にマッチ」

タイとフィリピンの音楽業界は、ToR+ SaksitとMaja Salvadorとの文化の垣根を越えたコラボをめぐって衝突しています。

シンガー・ソングライターでピアニストのToR——フェイバリット・アーティスト・オブ・タイランドを数回受賞——は、英語歌詞のバラッドFalling Into You(君にぞっこん)という曲で、ワイルドフラワーのリードスター(ダンス&ミュージックの世界で活躍の場を広げ、多彩な肩書を持つ)とデュエットしました。

この「夢の共演」は、BEC-TERO Music ThailandがIvory Musicと共同で企画したものです。Ivory Musicは、Majaのミュージックレーベルで、彼女はパタヤの南にできた最新設備のカルマ・スタジオでFalling Into Youを収録するためにバンコクに降り立ちました。この新曲は、Vanness Wu、Cyndi Wangらアジアのポップスターとタッグを組んできた台湾のプロデューサー兼コンポーザーVictor Lauが作曲しました。

Majaにとって、同じアジアのアーティストとコラボしたのは今回が初めてですし、ToRにとっても、自ら共作した英語歌詞の曲を収録した初めての経験です。

報道によると、Falling Into Youは、Majaの官能的で感情的な表現に加えて、タイのポップスターがつまびくピアノ演奏の妙技と心に沁みるボーカルが際立っているとのことです。

両アーティストの音楽ファンのもとへは、バレンタイン・シーズンに合わせてグローバル・リリースされる2018年2月にこの曲が届けられるでしょう。

33歳のToR(本名Saksit Vejsupaporn)は、ヒットチャートをにぎわすタイの歌手たちにピアニストとして紹介された2003年以来、タイの音楽業界で活躍しています。2007年にソロ活動をスタートさせ、ピアノ演奏だけでなく、自ら歌ったアルバムLiving in C Majorは、タイの音楽チャートで第1位に上りつめました。

去る9月、ToRはシンガポールで開催されたイベントMusic Mattersで、第1回のArtist That Matters 2017 Awardを受賞しました。Majaとのデュエット以外にも、ToRは最近、Waiting For Loveという(北京語で歌われた)曲で、ソニー・ミュージック・チャイナのJoshua Jinと共演しています。この曲は、中国、香港、台湾、シンガポール、マレーシアでリリースされました。

ToRは最近、Majaとの写真撮影のためマニラを訪れていました。その滞在中、彼はSTARとのe-mailインタビューも受けています。以下がその一問一答です。

今回のコラボについてお話をおきかせください。どういう経緯だったのでしょうか?

「Falling Into Youは、2016年にイギリスの作曲家2人と共同で書いた曲でした。とても素敵なデュエット曲だということは分かっていましたが、デュエットするいい相手が見つかりませんでした。なにせ英語の曲ですから。2017年初め、私の所属レーベルBEC-TEROが教えてくれたのですが、この曲をたいそう気に入っているフィリピン人アーティストがいて、この曲で私と共演したがっているというのです。それが最初でした。」

フィリピン人アーティストと初めて共演してみて、どういうお気持ちですか?

「英語の曲ですから、[英語圏]マーケットに完全にマッチするなと思いました。それに、この曲は、どんなに二人が離れ離れになっていても、互いに愛し合っていられることを歌っています。フィリピンについてお話しすれば、私は彼ら(フィリピン人)にとても親近感を抱いています。なぜなら、小学生から高校生まで、私を教えてくれた先生はみんなフィリピン出身でした。私の最初のバスケットボールの監督も、英語の先生も、聖歌隊の先生も、みんなフィリピン出身でした。そういう次第で、私はある意味、フィリピン人との縁を感じています。ですから、私はきっと素晴らしいコラボになると確信していました。」

「Majaはとても素敵なひとです。もちろん、彼女は美しい。ですが、世の中には、しじゅう「美しく」見られるように気を使ってばかりいる有名な女優さんが大勢いらっしゃるでしょう? 個人的には、そのせいで魅力が削がれているような気がします。ところが、Majaは違います。彼女は自然体です。話すときも、ジョークを言うときも、笑うときも、しっかりと地に足がついています。それが、私にとって美とは何かということの定義なんです。つまり、自然体ということです。」

このペアで何を実現したいとお考えですか?

「タイとフィリピンのマーケットのあいだで音楽カルチャーが交流するということは、Majaにとっても、私にとっても、素晴らしい機会になります。アジアのマーケットには、ロマンティックな愛のバラッドが広まる余地がまだたくさんあると思います。さらに、Falling Into Youを聴いてくださった方が、愛する人のためにこれを歌ってみたいという気持ちになってほしい。みなさんに幸せが訪れてほしいのです。」

Majaとの共演以前に、フィリピンの音楽やアーティストについて何かご存知でしたか?

「正直に申しますと、フィリピンのミュージックシーンについては、あまり知りませんでした。ただし、多くのフィリピン人のみなさんが音楽に造詣が深いことは存じております。歌が歌えないフィリピン人に出会ったことは一度もありません。それは、あなた方の文化が持つ偉大さなのだと思います。」

Falling Into Youを共作されて、何かインスピレーションが得られましたか?

「私がインスピレートされたのは、遠距離恋愛についてでした。私たちは誰しもその人生において、それぞれ責任を負っていると思うんです。いくら離れていても、自分を待ってくれている(あるいは愛してくれている)誰かがいるんだと分かっていることは、なんて素晴らしい感情なんでしょう。」

あなたの経歴を拝見していて気づいたのですが、あなたは2003年から15年近くプロのアーティストでいらっしゃいますよね。これまでの音楽経験をどのように総括されますか?

「今日やっていることができているってことは、なんて自分は恵まれているのかと思います。ここ数年はタイ国外にも活動の場を広げることができました。中国マーケットとか、まもなくフィリピンのマーケットにも。私の人生は、すべて音楽です。音楽によって周りの人びとが幸せとインスピレーションに満たされることを祈っております。」

あなたの音楽は、かりに「進化」という言葉を使ってよろしければ、スタートした頃からどれくらい進化してきたとお考えですか? それから、タイのトップ・ミュージック・スターのお一人として、時とともに変化する聴き手の音楽的嗜好に敏感であるために何かやられておられますか?

「私にとって、音楽は日記のようなものです。人間は、日記をつけるとか、絵を描くとか、写真を撮るとか、音楽を作るといった形で、記憶や歴史を記録しようとしてきましたよね? 今日書いた曲は、自分がどう感じ、自分が何者であり、今日何に熱中したのかを反映しています。私がやらなければならないことは、私の人生を生きること、音楽に磨きをかけることだと思うんです。新たなインスピレーションを見つけること、新たな課題を自らに課すことも、私がやりたいことです。」

これから先数カ月、私たちはあなたに何を期待してよろしいでしょうか?(たとえば、フィリピンやその他のASEANの国のアーティストとのコラボとか…)

「現在、次のアルバムに向けて新曲を書き始めています。たぶん次は、タイや中国など他のアジアのマーケットでリリースすることになるでしょう。ですが、フィリピンをもっと訪れることができればと思いますし、この国でコンサートを開きたいとも考えています。」

最後に、フィリピンの音楽ファンに何かメッセージをいただけますか?

「みなさんがこの曲を愛してくださることを望んでいます。私たちの人生の大部分は、愛からなっています。誰かを愛することができるってことは、とても心に残る経験だと思います。どうかその経験を、あなたが愛する人と分かち合ってください。」

タイの芸術家、2017年のペインティング・オブ・ザ・イヤーを受賞

タイの芸術家Sukit Choosri氏が描いた乙女の肖像画が2017年のUOB東南アジア・プリンティング・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。

ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)の発表によると、テンペラ絵の具やアクリル絵の具で描かれた、穏やかだが心を釘付けにするOne Lifeは、競争が激しさを増す経済環境のなかで、タイの若者が自分たちの将来に対して抱く不確実性を活写した絵として審査員の心をつかんだようです。

Choosri氏(40歳)は、2013年に設けられたこの賞を初めて受賞したタイの芸術家です。

オン・イェクン・シンガポール教育大臣兼第二国防大臣を招待した授賞式は、ヴィクトリア・コンサート・ホール&シアターで開催されました。

2013年に同賞が創設される前まで、UOBペインティング・オブ・ザ・イヤーのコンペティション参加者は、東南アジア各国(タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポール)で開かれるコンペティションに参加するしかありませんでした。

UOBのコンペティションは36年目になります。シンガポールでは、最も歴史のあるアートコンテストで、UOBの旗艦アートプログラムでもあります。

受賞作は、2017年11月16日から2018年2月末日まで、80ラッフルズ・プレイスのUOBアート・ギャラリーに展示されます。

上記4カ国出身の4人の審査員は、「菩提樹が徐々に朽ちていく様子に人生のはかなさが見事に描かれている」として、Choosri氏の精細な筆致を称讃しています。

Choosri氏は、自分の作品がめざしているのは、人びとに省察を促し、つかのまの生を超えたところに目を向けるよう示唆することにあると語っています。「善かれ悪しかれ、変化は避けられません。われわれは絶えず心を開き、人生上のあらゆる形の変化を迎え入れ、叡智を学んで修得する必要があります」とも。

ペインティング・オブ・ザ・イヤーのコンペティションは、地域社会にお返しする同行の取り組みの一環であると黄一宗UOB総裁は語っています。

「私たちは、芸術作品を通じて、地域を越えた人びとが一つのコミュニティとして親密になれるよう手助けすることができると信じています。」

「私たちは、地理的・経済的な絆を通じてだけではなく、私たちに共通のルーツと繋がりをより深く理解し、認識することを通じて結びつくことができるでしょう」と黄一宗総裁は述べています。

Choosri氏は前月にタイランドUOBペインティング・オブ・ザ・イヤーも獲得しています。

2017年のその他の受賞者は、Sunny Chyun(シンガポールUOBペインティング・オブ・ザ・イヤー)、Yang Kaiwen(シンガポール・モースト・プロミシング・アーティスト・オブ・ザ・イヤー)です。

このコンペティションは、シンガポールと東南アジアで活躍する著名な芸術家の登竜門となっています。過去、Raymond Lau、Chua Say Hua、Hong Sek Chern諸氏がヤング・アーティスト・アウォードを受賞しています。

タイのカフェ、3Dプリンターであなたの顔をパンケーキに

タイの通りに座って、自分の両目を見ながら考えています。左目と右目、どちらから食べようか、と。別に血まみれの悪夢にうなされているわけではありません。パンケーキの表面に描かれた自分の顔とにらめっこしていただけです。

実際、チェンマイの繁華街に、自分の顔をパンケーキに描いてもらえるカフェがあります。自撮り写真を送るだけで、生地上にあなたの顔を細部まで忠実に再現してくれるのです。

自分の顔をパンケーキに描いてくれる場所はそう多くありません。ただし、タイ北部のショッピングセンターだけは例外でしょう。下着販売店やワニ革のコピー商品を扱う店の隣に建つ、この商魂たくましい殿堂の3階にひっそりと店を構えているのがASカフェです。

世界中にあるこの種の数少ない場所の一つASカフェは、3Dプリンターとパンケーキ職人の手作業を組み合わせて、自撮り写真をバターで再現しています。

その工程は、まずトッピング選びから。クラシックシロップ、バターシロップ、メープルシロップのなかから選びます。顔にアイスクリームやフルーツをたっぷりとかけることもできます。次に、ああでもないこうでもないと表情を変えながら20分ほどで自分の顔を自撮りします。いろいろと考えて、顔や髪の毛や眼鏡を付け加えることもできます。スナップチャットフィルターはお勧めしません。準備が出来たら、所定のアドレスに写真をメール送信しましょう。

興味深げに見つめる店員を傍目に、私と友人たちは写真用にぎこちないポーズをとりながら、ばかみたいに笑顔を作ります。次にパンケーキ職人のWaanさんがボトルにバターを詰め込み、3Dプリンターが顔の輪郭をスムーズに描いていきます。ところが、途中までいったところで急に動かなくなり(どうやら私の顔がプリンターを壊してしまったようです)、Waanさんは困惑の表情。彼女はボトルをトントンと叩いて、バターを詰め直し、作業を再開しました。

Waanさんは、彼女のスマホ画面にある私の笑顔の写真をよく見て、眉に皺を寄せています。彼女は大小さまざまのバターノズルを使って私の顔を描いています。その表情は真剣そのものです。そう見えるのも無理はありません。恐るべき集中力を要する作業ですから。いろいろと計算しているのはもちろんです。Waanさんは、私の髪の毛や顔の凹凸をはっきりと描こうとバターノズルを慎重に操っています。こうして、パンケーキの輪郭が出来上がります。

途中、歯の輪郭だけが完成した状態を見ると、私の表情は痩せこけたダースベーダーのようで、あまり気分のよいものではありません。

「パンケーキ作りがどれほど難しいことか。一つ一つ手作りですが、どなたであれ、その方の特徴を忠実に描かなくてはなりませんから」とWaanさんは言います。私は我慢して、じっと待ちます。私の鼻が魅力的に見え始めてきます。

ASカフェがオープンして1年余りになります。もう一人のパンケーキ職人Gikさんは、大学でマルチメディア・アートを学び、二人ともこの仕事のために3カ月間修業しました。その短さたるや驚異的です。その腕前たるや印象的です。二人のもとには、ペットのパンケーキを作ってほしいという注文が毎日のように届くそうです。いちばん珍しい注文について訊ねると……

「いちばんびっくりしたのが、山羊のパンケーキでした。その御婦人が申されるには、『きのう山羊に襲われたの。だから今日は私が山羊を食べてやるわ!』と」

そうこうするうちに、私たちのパンケーキが完成しました。特にファンファーレもなく、味気ない白いプレートに載せられて配達されます。眉はシロップで、鼻と頬はバターで厚化粧されています。結局、自分の顔を食べるというのは、奇妙で、意外に憂鬱なものです。パンケーキ上の私の両目は悲しげに見えたので、最後まで取っておくことにしました。少し考えてから、最初は頬から食べることにしました。

パンケーキに印刷された顔を見ていると、あれやこれやといった実存的な思いに駆られます。「眼鏡をかけていればよく見えたのだろうか?」「あの大きなIRLは本当に私の鼻なのだろうか?」「どうして私の鼻がプリンターを壊したのだろうか?」等々。

友人の一人は、彼女のパンケーキの顔を見ながら、「私って父親似なんだ」と言いました。

「パンケーキの私って見栄えがいいわ」ともう一人の友人は言いました。

「ぼくは90パーセントが髪の毛だ」と三番目の友人が言いました。

私たちは皆、パンケーキを使って、いろいろなヘアスタイルを試してみました。完全に加熱調理された生地を切って、自分たちの髪型をボブやピクシーにしたらどういう感じなのかを見るために。ふと私は、パンケーキの自分が、食べてしまえば跡形もなくなる千年に一度の儚き空しさの実に究極のものだという気がしました。

美味なる千年に一度の儚き空しさです。

初のミシュランガイド・バンコク出版、3つ星レストランはゼロ

長らく食の愛好家の天国であったバンコクで、初のミシュランガイドが出版されました。しかし、3つ星を獲得したレストランはありませんでした。

2つ星を獲得したレストランは3店あり、そのうちの一つがインド料理店Gagganです。あとの二つが、フレンチ食堂Le NormandieとヨーロッパのレストランMezzalunaでした。

有名なバンコクの屋台街にあるJay Faiは、カニオムレツやカレーなどの料理で1つ星を獲得しました。

東京、香港、マカオ、ソウル、上海、シンガポールに次ぐバンコクのミシュランガイド出版によって、美食都市バンコクの知名度がさらに高まり、外国からの観光客が増え、経済が潤うことをタイ政府は期待しています。2018年の外国人観光客数3,700万人(タイの人口の2分の1以上)誘致がタイの目標です。

「ミシュランガイドの出版がより多くの食通の関心を集め、タイの観光・娯楽市場全体に寄与するとわれわれは確信しています」と語るのは、タイ国政府観光庁のユタサク・スパソン長官です。

ミシュランは、アジアの競合タイヤメーカーShandong Linglong Tyre Co.やAeolus Tyre Co.などに対して同社の幅広い拡販戦略の一環としてバンコク版ミシュランガイドを出版しました。この非営利ガイドの出版がミシュランの高品質なブランド力強化につながるものと同社は見ています。

ミシュランのレストラン審査員(匿名)は、創造性、品質、サービスに基づいて評価しています。料理が芸術的で「このためだけに訪れる価値のある」レストランには3つ星、「回り道してまで訪れる価値のある」レストランには2つ星、そのカテゴリーのなかでは素晴らしいレストランには1つ星がそれぞれ与えられます。

Gagganは、2017年前半のアジアで優秀なレストラン上位50位以内に3年連続でランクインしたあとの高い評価となりました。

「私どもの店の料理は昨日も本日も変わりません」とGaggan Anand シェフはインタビューに答えています。「ですが、今日以降、私を見かけた人たちは、あの男が2つ星を取ったのだといって通り過ぎることでしょう。」

ミシュランガイド・バンコクには17の料理店が掲載され、うち14店が1つ星を獲得しました。ミシュランガイド国際ディレクターのミシェル・エリス氏が語ったところによると、バンコクのレストランが3つ星を獲得するまでにはもう少し時間がかかると思われます。

芸術と文化の国タイの芸術家は社会的不遇をかこつ

彼女がダンサーの道に進もうと決めたとき、最初に受けた質問は、「それって本当に仕事なの?」というものでした。

バレエの教師をしながらプロのダンサーをめざす彼女は、ダンスの仕事だけで自活していけるだろうかという不安にしばしば苛まれます。タイの人びとは、芸術家という職業を「副業」か「趣味」くらいにしか思っていません。芸術遺産はタイの誇りですが、タイ社会において芸術家という職業は低く見られています。

社会学者アーヴィン・ゴフマンは、タイは「外国人にどう見られているかを気にする」社会であると言っていますが、たしかに、タイは体面を重んじる社会だと思います。タイにおいて重要なのは、ほかの人に好印象を与えるような仕事に就くこと、あるいは安定した仕事に就けるような技能を身につけることでしょう。とっておきなのは、社会から尊敬を勝ち得ることですが、医者や弁護士、建築家などの肩書きはその条件を満たします。芸術関係の職業を志望することは勧められません。そうしたことから、彼女は会う人会う人から、「どうやってバレエを仕事として生計を立てていくの?」と訊ねられます。

芸術は、人びとの感情を揺り動かし、自分の新たな一面を気づかせてくれるものです。ところが、芸術の稽古が奨励されず、芸術家の社会的意義が認められていないとは、なんとも皮肉なことです。

「BGMであれ、おしゃれなジャズであれ、音楽は社会に必要なものなんです」と、芸術の重要性について語るのは、タイのジャズミュージシャンで、マッド・パペット・スタジオの音楽ディレクターでもあるJanpat Montrelerdrasame氏です。Janpat氏が音楽分野で傑出した才能の持ち主であることはつとに知られています。

バンコク・シティ・バレエ(BCB)に所属するバレリーナの第一人者Napichaya Ampunsang氏は、バレリーナの仕事に就きたいという思いを明らかにしたとき、誰からも歓迎されませんでした。「祖母が彼女の考えにちっとも賛成でなかったことは知っています。ただ“情感”に訴えるものでしかないバレリーナが、祖母の目にはナンセンスに映ったのでしょう」と彼女は語ります。

バレリーナの道を歩み始めてまだ間もないころ、自分の職業選択について訊かれたNapichaya氏は、自分はダンサーであり、教師であるといつも答えていたといいます。いちばん厳しい見方をしたのは、見ず知らずの人ではなく、遠くの親戚たちでした。

「ダンサーがコマーシャルのなかで踊っているのを見た親戚たちは、それが現実の生活に何の役にも立たないと考え、ダンサーの存在自体に文句をつけていました。彼女もダンサーでしたから、ひどく傷ついたものです。彼女はその[ダンサーという]仕事の誠実さを誇りに思いますし、尊敬に値する仕事だと信じています。しかも、ダンスの知識はほかの人に伝えることができますし、それを習う人にとってとても勉強になり、役立ちます。」

Napichaya氏の親戚たちが彼女の職業選択を認めるようになったのはずっと後のことで、彼女の教え子がタイのダンスコンテストGot Talentに出演したのを見てからでした。その懸命な演技によってはっきりとした成果が示されてからやっと親戚たちは認めたのです。

芸術家は、多くの人びとの心を励ます芸術作品を毎日創造しています。それはちょうど、セールスマンが大きな契約を結んだり、弁護士が注目される裁判で勝訴したりするのと似ています。ただし芸術家の場合、作品の成果の表れ方はさまざまです。

バンコクのギャラリーTentaclesの創設者の一人で、パフォーミング・ファイン・アーティストとして活動するHenry Tan氏の場合、心の支えという問題はあまり話し合われていません。「[家族が]彼女を応援してくれているのかどうか、彼女にはわかりません」と彼は語っています。

「それが安定した仕事かどうかということについては家族のなかでいつももめています。家族は彼女のことをただ心配し、気にかけてくれているのでしょう」とTan氏は言います。

家族や友人からの財政的・精神的な支援がなければ、芸術家はたいてい自分の情熱だけを追い求めることはできず、別の仕事を掛け持ちしなければなりません。経済的な事情もあり、Tan氏は副業でお金を貯めています。Janpat氏は、ピアノを教えたり、ホテルのバーで音楽を演奏したり、タイで有名な多くの歌手のスタジオ・ミュージシャンを務めたりしながら、マッド・パペット・スタジオのために曲作りもしています。

一方、Napichaya氏は、BCBで踊るだけでなく、ミス・ユニバース・タイランドの公演用の振付助手を務めながら、自らダンス教室を経営し、そこでダンスを教えています。

脚光よりも給料

Napichaya氏は、なぜタイ人が芸術的な仕事よりも平凡な安定した仕事に高い価値を置くのか、その理由について興味深い見方を示しています。一握りの上流階級は芸術を楽しみ、鑑賞する余裕がありますが、中下層階級の子弟は、家族の暮らしを支えたいとの思いから勉強に集中せざるをえません。

「上流階級の人びとは、芸術を鑑賞できるだけの経済的余裕があります。そのため、彼らは下層階級の人びとよりも[ダンサーという仕事が]どういうものかをよく理解しており、ダンサーを社会的に見下すことがあまりありません」とNapichaya氏は言います。

タイ社会の大部分が中下層の人びとからなる以上、芸術家になることが責任ある職業選択とみなされないのはもっともです。

「たとえばダンスの場合、子供たちは踊ることが好きなので、親は子供たちをダンス教室に通わせています。ところが、人生のある時点、中学受験を控えた5、6年生になると、子供たちは学業に専念し、ダンスをやめてしまいます。そういうわけで、彼らはもうそれ以上ダンスを続ける理由がないのです」とNapichaya氏は語っています。

音楽の道をめざすように勧める家族や友人に囲まれて育ったJanpat氏でしたが、その彼も多くの人に認めてもらうために努力を続けました。

「タイ社会は、実のところ、芸術をさほど高く評価していません。ですから、タイにおいてミュージシャンでいることはかなり厳しいのです。人びとから尊敬を勝ち得ることは困難です」とJanpat氏は言います。

彼女からすれば、社会の期待と蔑視を著しく受けながら作品を創造する芸術家は、心傷つき、へこたれてしまうような、結構きつい仕事なのです。

タイの芸術家が、才能よりも体面を重んじるこの国でなんとか成功しようと奮闘しているのは確かです。ただ、そのせいで、タイ社会の未来へとつづく刺激的で影響力のある芸術作品を生み出そうと努める彼らの創造力は枯渇してしまいます。

アート・ステージ・シンガポール2018、注目はタイの芸術家

アート・ステージ・シンガポール2018は、規模を4分の1ほど縮小して開催され、出展するギャラリーは100軒を下回る予定です。開催責任者のロレンツォ・ルドルフ氏は、市場の不振をその理由に挙げています。

ART STAGE Singapore 2018
https://www.artweek.sg/events/art-stage-singapore-2018

過去7年連続で開催されているこの催しに参加するギャラリーは、おととしが170軒、去年が131軒と減少傾向にあります。

「市場は不振をきわめ、ここ8年間伸び悩んでいます」とルドルフ氏は報道関係者に語っています。

アート・ステージ・シンガポール2018には、「90〜100軒のギャラリー」が出展する見通しですが、目下交渉中のためギャラリー名は明かせないとのことです。

ルドルフ氏によると、2011年以降アート・ステージ・シンガポールに出展したギャラリーは計500軒を超えていますが、多くは販売不振か、決まった収集家にしか売れないとの理由で、再出展を拒んでいるといいます。

隣国の都市で同様の催しが開かれている影響も考えられます。ルドルフ氏がアート・ステージ・シンガポールの姉妹版として2016年にインドネシアのジャカルタで始めた同様のイベントは盛況だったようです。

アート・ステージ・シンガポール2018は、1月26日から28日まで、マリーナベイ・サンズ・エキスポ&コンベンション・センターで開催されます。長期的な展望を問われたランドルフ氏は、「シンガポールの影響力は今も強く、要はその使い方次第です」と答える一方で、「最大の問題は、シンガポール自身にあります。地元の収集家がここでは買ってくれないのです」とも語っています。

アート・ステージ・シンガポールは、東南アジアの旗艦アートフェアとして2011年に始まりました。その舵取りを任されたのが、スイス人のランドルフ氏です。彼は1990年代半ばにアート・バーゼルのディレクターを務めていました。

アート・ステージ・シンガポールは、毎年恒例のパブリックアート・フェスティバル「シンガポール・アート・ウィーク」の進展に弾みをつけました。シンガポール・アート・ウィークの呼び物は、国立芸術協議会、シンガポール政府観光局、シンガポール経済開発庁が企画するアートウォーク、光のショー、パブリックインスタレーションなどの催しです。

2018年のシンガポール・アート・ウィークは、1月17日から28日までの一週間です。

需要が低迷しているのは、アート・ステージだけではありません。2010年にシンガポールで始まったアフォーダブル・アートフェア(100〜15,000ドルの作品を販売)も同様です。当初は盛況をきわめ、2014年から年2回開催されていましたが、最近の売り上げ不振のため、2018年からは年1回の開催に戻る予定です。出品される作品の75パーセントが7,500ドル以下のお手頃価格だというのにです。

アート・ステージ・シンガポール2018の注目は、タイの芸術家です。タイから10軒のギャラリーが出展し、Natee UtaritやKamin Lertchaiprasertらスター芸術家の作品が展示される予定です。

芸術家同士の意見交換や芸術家の支援を促すアート・ステージは、東南アジアフォーラムの一環として、この地域出身のデザイナーやスタジオを紹介する場となっています。

2018で注目されるデザイナーやスタジオは、シンガポールのDazingfeelsgood、Hans Tan、Kevin Chiam、Tiffany Loy、タイのFabuless Studio、フィリピンのGabby Lichaucoなどです。初開催となるデザイン展示会は、オンライン・アート店The Artlingとのコラボです。